アメーバ黒字化からAbemaTVまで。サイバーエージェント小池常務が考える組織づくりとは?

 

小池 政秀/Masahide Koike

1975年に静岡県にて生まれる。大学卒業後、1998年に荻島商事株式会社(現:アイア株式会社)入社。2001年に株式会社サイバーエージェントに入社後、2011年には株式会社AMoAd代表取締役就任。2012年に株式会社サイバーエージェントの取締役に就任し、2014年から常務取締役就任(現任)。さらに2016年からは株式会社AbemaTV取締役就任(現任)している。

 

鎌倉時代からあるお寺の家に生まれた

    

伊達「小池さん、今日はお時間いただきありがとうございます。僕の会社は『夢を応援する社会をつくる』という言葉を掲げている会社なので、この『伊達の部屋』っていう企画では、皆さんの夢にまつわるような話を色々聞かせてもらってるんです。a.journalも最近だんだんと外部の人にも見てもらえるようになってきていて、うちの社員はもちろんですけど、僕らに興味がある人みんなに見てもらえるメディアにしたいと思っているんです。それでこの『伊達の部屋』の第1弾に玉塚さん、第2弾で小池さんに来ていただいた訳です。小池さんって今はサイバーにいらっしゃるじゃないですか。それまでの人生はどういう人生だったんですか?小池さんがお寺の息子、ってことは既に知ってるんですけど(笑)生い立ちとか色々聞いてみたいです。」

小池「そうですね。うちは父方も母方も家がお寺で、お寺の家系なんですよ。で、そのお寺も64代目とかで結構古いんですよね。」

   

伊達「え、64代目って何時代からあるお寺ですか?」

小池「鎌倉時代からです。両親とも家が古くからあるお寺だったので、そういうのが当たり前で育ったんですよね。で、お祖父さんの時代から、お寺に加えて政治家もやってたんですよ。衆議院とかやってたりして。」

伊達「衆議院ってやばいですね(笑)」

小池「親父も兄貴も政治家なので、うちはお寺と政治家の一族なんですよね。でも僕は3番目の子どもだったんで、お寺でも政治家でもなく、最初から『お前は自分で仕事をしろ』と言われてたんです。」

   

伊達「そう言われて、実際のところは嬉しかったんですか?ちょっと嫌だったりしました?」

小池「どっちの気持ちもありましたけど、正直どうしたら良いんだろうな〜って(笑)そもそも周りにお寺とか政治以外のビジネスをしてる人がいないから、将来どうするか?なんて言っても全然イメージが湧かないんですよね。それで親戚の人に相談したら、『好きなことを仕事にすればいいんじゃない?』なんて適当なこと言われて(笑)それなら好きなアパレルの道に進もうと親に言ったら、今度は『大学に行かないならお金は出さないよ』と言われてしまったので、結局そのまま大学に進学しました。でも大学に行きながら専門学校に通ってファッションの勉強をしたので、大学卒業後はファッション商社に就職したんです。で、その会社で1〜2年くらい仕事をしていた時に、ドーンとネット産業が出てきたんですよ。」

  

  

これからはネットの時代。アパレルからネット産業へ。

  

小池「僕が大学を卒業したのが1998年で、マザーズができたのが1999年。その当時うちの社長(藤田晋氏)が史上最年少上場をしたって言う記事を読んで、なんだこれは!って衝撃を受けました。僕もインターネットは好きで、大学時代から触ってはいたんですけど、それがビジネスになっているってことを全然知らなかったんです。その後、自分で色々情報収集してみたらすごい興味が湧いて来て、ネットに関わる仕事に転職しようと思って動き出したのが大体2000年くらいの時でしたね。」

 

伊達「サイバーさんがマザーズに上場したのって2000年でしたっけ?」

小池「そうですね。マザーズができたタイミングくらいでサイバーが上場したので、そのニュースが大きく記事にも載ったんですよ。それを見て『俺もこのままじゃやばい。今の時代は情報革命だ。この波に乗るしかない。』と思ったんです。でも転職するにしても、そもそもどんな企業があるか知らなかったんで、ひとまずエージェントに紹介してもらったのが、外国人向けの人材サービスとか、外国人向けに日本のベンチャー企業の情報を英文雑誌で作ってたりとか、外国人投資家と日本のベンチャーをつなげるマッチングサービスを運営している会社だったんですよ。この雑誌をやりながら、投資家の人に営業に行って、日本のベンチャー企業家とコミュニケーションを繰り返すという。それを1年間くらいやってました。その中で仲良くなったやつと『会社作ろうぜ』ってなって、トラッキングシステムの会社を三人くらいで作ったんですよ。そいつが社長やってて、僕が事業の方をやってて、一人モンゴル人のエンジニアがいて、トラッキングシステムの会社を立ち上げました。結構いい技術だったので、いけそうな感じだったんですけど、お金がないとサーバーが買えないので、お金を出してくれる人を探してたらソフトバンクさんがお金を出してくれたんです。サーバーが補充されたら営業がどんどんできるようになったのですが、その営業先のうちの1社がサイバーエージェントだったんですよね。それは立ち上げからプロダクトを作るまでで、1年くらいやってたのかな。」

 

伊達「てことは、1回起業は経験されてる訳ですね。」

小池「まあ、そうですね。社長としてではなかったけど、『0→1』は一回その時に経験しました。そうこうしてるうちに、社員数も20人くらいに増えて、利益もそこそこ出せるようになってきたんです。でも、情報革命だ!って意気込んできた割にこじんまりした事をやってるなー、なんて思い始めた時にちょうど、『藤田社長とメディアの会社を作ろうとしてるから一緒にやってくれないか?』って話が僕のところに舞い込んできたんです。前の会社も軌道には乗ってきていたので、ある程度のところまでやって引き継いで、今度は新しくメディアの会社を立ち上げ始めた。それが僕がサイバーに入ることになったきっかけですね。」

  

 

アメーバを2年後に黒字にするから入ってくれ。

 

伊達「それが何歳の時の話なんですか?」

小池「それがね、26〜27歳くらいの時かな。サイバーだと、ちょうど300名くらいの時でしたね。」

 

伊達「じゃあその時にはかなり野心あふれる感じで、ここから這い上がってやるぞ!みたいなモードだったんですか?」

小池「うーん、と言うよりも、僕がサイバーに入った動機って、サイバーで偉くなりたいっていうより、サイバーが上場して集めた200億の資本を使いたかった、って言う事なんですよね。大きな事をやりたいがためにインターネット業界に来たのに、まだ出来ていない自分を打開したかったんです。だからそのために僕はサイバーを選んだ。」

 

伊達「なるほど、その発想ができる26歳ってめっちゃかっこいいですね。」

小池「そうかな(笑)まあタイミングもありましたけどね。で、サイバーに入って、メディアを立ち上げて、広告をプロダクト化して、セールスして、そのセールスする組織を大きくして…とある程度やったなーって思ったタイミングで、今度はアメーバの話が僕のところに来たんです。でもその時のアメーバって毎月赤字で、なかなか上手くいってなかったんですよ。でもうちの社長が『2年後に黒字にするから一緒に入ってくれ』って言うからね、じゃあ一緒にやってみるかと。そこからまた新しくメディアを立ち上げ、黒字にし、ピグも出して…」

 

伊達「いやいやいや、いま普通に何十億の赤字が黒字になったって話してますけど、そんな簡単なことじゃないですからね(笑)藤田社長も、2年後に黒字にならなかったら社長を辞める、みたいなことも言ってたじゃないですか。」

小池「実際にはそんなこと言ってないんですけど、そういうふうに記事に書かれちゃったんですよね(笑)そんなふうに周りが言うもんだから、おかげで僕は『黒字化する』っていう次の明確な目標が出来た。まあやってみないと分からないよなーとは思いつつ、実際にやってみたら芸能人ブログがヒットしたりとか、いくつか追い風もあったので、うまくその短期間で黒字化することができましたね。それで一通りやったなって思ったら、なんだかまた飽きてきちゃって(笑)次は何をしようかなって思っていたタイミングで、今度はスマホが出始めて来たんですよね。ああ、だったら今度はスマホで新しいことをしてみたいな、なんて思って新しくゲームの事業を始めることにしたんです。」

 

伊達「え、じゃあゲーム事業の発端って小池さんなんですか?」

小池「子会社では既にあったんですけど、アメーバ直下のゲーム組織、っていうのを僕が立ち上げたっていう感じですね。新しく立ち上げたゲーム事業では、「ガールフレンド(仮)」っていうゲームがヒットしたのもあって、まあまあ上手くいったんですけど、そこから2年くらいやったらだんだん飽きてきちゃって…僕って飽き性なんですかね(笑)また何か新しいことをやりたいなーなんて思ってたら今度はAbemaTVの構想が出てきて、巻き込まれないように少し離れて見てようかな〜なんて思ってたのに、結局巻き込まれ始めて(笑)で、今に至りますね。」

 

 

成果を出せる人よりも、自分とシンクロできる人と働く。

 

伊達「小池さんって『0→1』も『1→10』も『10→100』もやってこられたじゃないですか。それって同時に組織も作っていかれた訳ですよね。組織を拡大し、運営していく上で、日頃考えられている事とか、実践されている事とかってありますか?」

小池「組織をサイズアップする上では、まず骨格づくりから入らないといけないですよね。骨格っていうのは、自分の戦略とか設計を一緒に支えてくれるチームのことですね。目指す組織のサイズ感によって、考えながら人を増やしていかないとダメなので、何よりも骨格づくりを大事にしてます。戦略もないわ、設計もないわ、人もいないわ、って言うのではダメなんで、何から考えて動くべきかという順番は意識してやってますね。」

 

伊達「事業の組み立て設計図をまずしっかりとした上で、そこに人員を当てていくみたいな感じですね。」

小池「肝というか楔となる人からまずは決めていって、目処が見えてきたら、さらにそこに人を増やしていく。最初の形はいびつでも、まずは戦略と設計をしっかり立てて、そして骨格になる人を配置して、準備ができたら採用して組織自体を大きくしていく、みたいな感じでやってますね。」

 

伊達「そのコアのメンバーを選ぶ時の基準ってどういうものなんですか?」

小池「ちゃんと成果を出せる人かどうかっていうのも大事ですけど、自分とシンクロできるかどうかっていうことのほうが大事ですね。成果重視で選ぶと、結局組織内がシンクロできなくて、ぐちゃぐちゃになってしまうんですよ。だから成果ベースで選ばずに、ちゃんと自分とシンクロしてくれるかどうかで選ぶ。そこをちゃんと見極められれば、一緒に仕事をやっていく上で、その後も自分の味方になってくれると思っています。」

 

伊達「組織が急拡大する時に、経営陣として採用する上で何か気をつけている部分ってありますか?」

小池「そこもシンクロするかどうか、ってところじゃないですかね。自分たちと一緒に働きたいと思ってる人たちと、ちゃんと気持ちの上でシンクロできるかどうか。だんだん組織が大きくなってくると、いろんな人が集まってくるじゃないですか。その分、いろんなキャリアだったり、キャラクターの人に出会うから、今までとはちょっと違う雰囲気の人も採った方がいいのかな?なんて思ったりすると思うんです。でも僕が色々と採用を経験してみて分かった事なんですけど、まずは自分がその人と一緒に働きたいと思えて、なおかつその人が自分の会社で働いてるのがちゃんと想像できる人じゃないと採っちゃダメですね。リソースとして人数を増やしていかなくちゃいけない、っていうタスク感はあると思うんですけど、それでも結局は自分の心の声に従うべきなんです。」

 

 

上りのエスカレーターで、ちょうどいい背伸びを

 

伊達「小池さんって、新しいことを始めてはそれを成し遂げて、そしてまた新しいことに挑戦して…って何度も繰り返しながら、小池さん自身のステージをどんどん上げ続けていってるじゃないですか。そのモチベーションの根元にあるのは何ですか?」

小池「とにかく大きなことに携わりたいって気持ちですかね。それも、自分がコントロールできる立場で関わりたい。お金のために仕事してもしょうがないじゃないですか。どんどん大きなことを成し遂げていく、その充実感が一番大きいんですよね。僕が昔、豆みたいなメディアを立ち上げた時は、色々な営業先に自分で直接電話してアポを取ってたんですけど、そういう営業の電話って掛けてもだいたい切られたり、ちゃんと話を聞いてもらえなかったりするじゃないですか。でも今では、そんな風に話も聞いてもらえなかったような会社の会長とかと一緒にミーティングしてたりして、自分の立ってるステージもだいぶ変わったんだなーって感じますね。」

 

伊達「その感覚はめちゃくちゃ分かります。」

小池「でもそうやって自分のステージを上げていくためには、時代の流れを掴むことがすごく大切ですよね。僕であれば、例えば情報革命のタイミングとかね。ちゃんと上りのエスカレーターの場所に正しく立つこと。その時代の流れをしっかり掴んだ上で、そこで戦うために必要な能力を1つずつ身につけて行けば、だんだんと世の中がこちらにアジャストしてくる、って感覚がありますね。」

 

伊達「なるほど。そうすると、小池さんの夢っていうのも『大きいことを成し遂げたい』っていうことなんですかね。」

小池「そうですね。とにかく、でかいことを追求し続けていきたい。だからこそ大事なのは、さっき言ったみたいに、上りのエスカレーターにちゃんと乗るっていうか、世の中の変化や市場の良いタイミングをきちんと掴むということ。そして勝つべきタイミングでちゃんと勝つこと。そうじゃない局面で勝ったとしても、大してレバレッジが効かないんですよね。リターンが少ないっていうか。同じ時間をかけるんだったら、難易度が高くても、レバレッジが大きく効く所のほうがいいじゃないですか。でも難易度が高すぎると、負け続けてダメになっちゃうから、そこのさじ加減というか判断が大事ですね。」

 

伊達「ちょうどいい背伸びをする、って感じですか?」

小池「そうそう!ちょうどいい背伸び。例えばうちなんて、今まで映像なんて作ったことなかったのに、ある日作るようになったりしたじゃないですか。そういうふうに、今までの文化から新しい文化に切り替えなきゃいけない時、って絶対あると思うんですよね。その度に周りのメンバーも変わってはいくけれど、新しい業界の人とも会うようになったりして、交友関係も広くなって、どんどん面白くなっていくんですよね。逆に、昔一緒に仕事してた人で、今でも仲良くしてくれている人とかも、もちろんいるし。そういう人たちがまた僕が何かやろうとした時にサポートしてくれるんです。そういう人たちのおかげでスタートダッシュが切りやすくなったりする。サポーターがいっぱいいる、って感覚に近いですね。とてもありがたいです。」

 

 

前向きに、フラットに。忘れちゃいけない気持ちを思い出させてくれる存在。

 

伊達「いやあマジで小池さんみたいな人、うちの会社に欲しいなあ〜(笑)」

小池「いやいや、経験しないと分からないことがほとんどですよ。僕も今でこそなんとなく分かってきて、全力でやってみたりペース配分したりって、力加減ができるようになってきましたけどね。」

 

伊達「小池さんって色々な人に会ってらっしゃるじゃないですか。その中で、僕と会ってくださる理由って何なのかなって言うのをお聞きしたいのですが…これ、自分で聞くの結構恥ずかしいですね(笑)」

小池「やっぱり、伊達さんのいいところって、バイタリティあふれてるところじゃないですかね。そういう若い人の勢いとか、前向きな姿勢って、自分でも忘れちゃいけないなって思うんですよね。だからたまにこうやって伊達さんに会うことで、そういう気持ちを思い出させてもらってますね。」

 

伊達「お〜ありがとうございます!そう言ってもらえるのはすごい嬉しいですね!じゃあせっかくなので、僕にとっての小池さんを少しだけお伝えさせていただくと…小池さんってめちゃくちゃ頭の良い人なのに、俺みたいに泥臭く仕事をやってる人間にも、わかりやすい言葉を使って、ちゃんと腑に落ちるように話してくれるんですよね。社会的に勢いがあるような人でも、発する言葉がなんだか心にグサッと来ないなーって人もいると思うんです。でも小池さんって頭がいいから、ちゃんと腑に落ちるように言葉を選んで話してくれるし、なおかつ現場感もきちんと理解してる人だから、ビジネスマンとしてめちゃくちゃ優秀だなって思うんですよね。それに小池さんって性格的にもすごくフラットだから、誰に対してもフラットに接してくれるんですよね。そういう所とか見ると、好きだな〜って思いますね(笑)」

小池「まあね、自分がいつどうなるかなんて分からないから、ちゃんと種巻いとかないといけないでしょ(笑)あとは僕自身に、ブランドとかが付いてなかったのが良かったのかもね。東大卒で、マッキンゼーで…みたいなアドバンテージが一切なくて、ずっと野良犬のようにやって来たから。それはもちろん大変でしたけど、結果的に良かったのかなとも思いますね。」

 

伊達「そういう人たちには負けたくないから結果で見返そう、みたいな気持ちってやっぱりありました?」

小池「そうですね。それはもちろんありましたね。ただの負けん気というより、でかいことをしてやりたいって気持ちと、それが自分に出来るということ証明したい、という気持ちでしたね。」

伊達「やっぱ小池さんかっこいいっすね〜。最高です。じゃあ、この話の続きは二人で飲みながら(笑)今日は色々聞かせていただいて、ありがとうございました!」

小池「そうだね、このあと飲むしね(笑)こちらこそありがとうございました。」